ブッダが説く親の大恩十種②懐胎守護の恩

 ブッダが説かれた「親の大恩十種」の二番目は、「懐胎守護の恩」です。
 いよいよ陣痛が起こり、子供を産む時の苦しみは、青竹を握らせると二つに押し割るほど激しいといいます。ブッダは『父母恩重経』に、
「月満ち日足りて生産の時至れば業風吹きて之れを促し、骨節ことごとく痛み、汗膏ともに流れて其の苦しみ堪えがたし」
と説かれています。その痛みを、作家・有島武郎は妻の姿を通して生々しく描写しています。
 ちょうど三時と思わしい時に──産気がついてから十二時間目に──夕を催す光の中で、最後と思わしい激しい陣痛が起こった。肉の眼で恐ろしい夢でも見るように、産婦はかっと瞼を開いて、あてどもなく一所をにらみながら、苦しげというより、恐ろしげに顔をゆがめた。そして私の上体を自分の胸の上にたくし込んで、背中を羽がいに抱きすくめた。もし私が産婦と同じ程度にいきんでいなかったら、産婦の腕は私の胸を押しつぶすだろうと思うほどだった。(中略)
 大きな天と地との間に一人の母と一人の子とがその刹那に忽如として現われ出たのだ。
 その時新たな母は私を見て弱々しくほほえんだ。私はそれを見るとなんという事なしに涙が目がしらににじみ出て来た。
(有島武郎「小さき者へ」)
 俗に「主人がいるとお産が重い。主人が不在だと安産だ」といわれているのも、産婦の苦しみを主人として見るにしのびないことを示しているのでしょう。
 ブッダの母マーヤー夫人は、出産後まもなく、亡くなっています。子供を産むことは、女性にとっては男の戦場にのぞむようなもので決死の覚悟が必要なのです。


Copyright © ブッダとは? All Rights Reserved.