ブッダ物語●上達よりも大切なこと(1)

「ごめんなさい。ごめんなさい」
 修羅のような兄の剣幕に、ひざがガクガクして頭の中が真っ白になる。シュリハンドクは目をつぶり、手を合わせて必死にわびた。
「おまえがヘマをするせいで、オレの修行は一向に進まない。もういい加減にしろ。どうしておまえはそんなにばかなんだ。修行を続けるのは自由だが、もう一緒はごめん被る。出ていってくれ」

 兄が言い終わると同時に、ピシャリと目の前で扉は閉じられた。ハンドクは、幼児のようにしゃくり上げている。頭がジンジンしびれてきて、しゃがんでなお泣き続けた。なぜ泣いているのかさえ、もう分からない。だが後から後から、目には涙があふれてきた。
 ようやく泣きやんだ彼は、ひざに頭を乗せ、足の間から道の小石をぼんやり見つめている。だらりと垂れた鼻水をすする気力もなかった。
“名前も覚えられないばかだからヘマをやらかすんだ。兄さんのように利口に生まれていたら、どんなによかったろう”。いつも思いはそこに行き着く。いけないと知りつつ、こんな身に生んだ親や優れた兄を恨む心が起きてきた。こんな自分に修行なんて無理じゃないか。そう思うのがつらかった。
 その時、
「なぜ、そんなに悲しむのか」
と背後で声がした。聞き覚えのある声に振り返ると、ブッダであった。
 驚いて立ち上がり、腕で顔をぬぐう。その手を法衣になすりつけ、あわてて合掌した。もつれる舌をどうにか動かし、訳を説明した。
「世尊、どうして私は、こんなばかに生まれたのでしょうか」
 最後にこう言うと、また悔しさが込み上げてきて、さめざめとハンドクは泣いた。ブッダの声が、優しく耳に届く。
「悲しむ必要はない。おまえは自分の愚かさを知っている。世の中には賢いと思っている愚か者が多い。愚かさを知ることは、最もさとりに近いのだ」
(つづく)

Comments are closed.


Copyright © ブッダとは? All Rights Reserved.