ブッダ物語●仏弟子アナリツの誓い(1)

 精舎では善男善女が肩を並べ、真剣にブッダの説法を聴聞していた。瞬きさえ惜しむような張り詰めた空気の中で、仏弟子アナリツは不意に襲った睡魔と闘っている。不摂生をした覚えはないが不覚にも、彼はつい居眠りをしたのだ。
 法話のあと、犯した過ちの大きさに震えながら、ブッダの御前にひざまずいて、うなだれた。
「何が目的で、仏道を求めているのか」
 ブッダの問いにアナリツは、
「はい。生死の一大事の解決のためでございます」。
「そなたは良家の出身ながら道心堅固、どうして、居眠りなどしたのか」
 慈言が胸に響き、身の置き場もないような気持ちになる。悔悟の念を絞り出すように、アナリツは誓った。
「今後、目がただれようとも眠りはいたしません。どうか、お許しください」
 その日から熱烈な修行を敢行した彼は、夜が更け、暁を見ても、決して眠ることはなかった。不眠は連日に及び、”あの誓いは聞法の場のみのこと”と思った周囲からは、驚きとともに忠言が多く寄せられた。夜も休まぬ決意とは、到底だれも思わなかったのだ。
 やがて、不休の修行で目を患った彼に、ブッダは諭された。
「琴の糸のように張るべき時は張り、緩むべき時は緩めねばならぬ。精進も度が過ぎると後悔する。怠けると煩悩が起きる。中道を選ぶがよい」
 侍医の、”もう少し、眠れば治る”の強い勧めにも、彼は釈尊との誓いを貫き徹し、ついに両眼を失明した。同時にしかし、深遠な心眼が開け、釈迦十大弟子の一人、アナリツ尊者となっている。

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