ブッダ物語●生まれ変わった殺人鬼(3)

 悪バラモンの敷いた破滅への道を、オークツマラはひたすら驀進する。死体は累々と積まれ、ついに九十九人までになった。

 だれ言うとなく彼をオークツマラ(指鬘)と呼んだ。

 狂鬼のごとく最後の一人を求めていた時、目の前に現れたのは、生みの母であった。わが子の所業をうわさに聞き、驚いてやってきたのだ。彼にはもう、だれかれの見境もなかったが、さすがに愛する母に会い、心が動揺する。麻痺した心にも懐かしく温かい感興がよみがえり、しばし人間らしい心が戻った。その時、彼の目にもう一つの影が映る。仏陀釈尊であった。見るが早いか、母に向いていた身体を反転し、釈尊めがけて猛然と突進した。ところがどうしたことか、一歩も前進できない。彼は焦って鋭く叫ぶ。
「沙門よ、止まれ!」
 釈尊は、静かに応じられる。
「我は止まれり。止まらざるは汝なり」
 奇異な答えに、彼は大いに驚いてワケを尋ねる。
「そなたは邪教にだまされて、みだりに人の命を奪おうと焦っている。だから少しも身も心も安らかになれぬのだ。我を見よ。生死を超えて何ら煩うところがない。惑える者よ。早く悪夢より覚めて無上道に入れ」
 ブッダの尊容と無上の威徳に接して、さしもの悪魔外道も慟哭し、たちまち敬虔な仏弟子となっている。

 後日、托鉢中の彼を見て、道行く人が言った。
「あれはオークツマラではないか。憎むべき殺人鬼だ」
 呼応するように人々が群れ集まってくる。手に手に石を取り、刀を持って攻撃してきた。手向かわぬ彼は大衆のなすがまま、深傷を負い、ようやく逃れて、ブッダのもとに戻ってきた時は虫の息だった。ブッダの教導により、自己の造った悪業が、このような報いを招いたと知り、忍んで受け入れたのである。

「わが弟子の中、法を聞いて早く悟ること、指鬘のように勝れた者はなし」
 ブッダは言われたという。

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